肌寒い夜

深淵



時折淵に落ち込んだような時がある


別に気分的に落ち込んでるというわけではなく


むしろ不思議な世界に浮遊している気分。




風呂から上がり、


窓を開けて外の空気を取り入れると


五月の夜はまだ肌寒く


体温との温度差に


鼻が疼く。




そんな時だった。


ぱっと網膜からの情報が途絶えた。


ぼーっと見つめてた家の白い壁は


いつしか思考から除外され


ふわふわと宙を彷徨うような自分。


体内を流れる血潮にすっと吸い込まれていくような


生きてるのか死んでるのか。




子供の笑い声が聞こえる。


昼間の仕事場の残像か。


いや、違う。




次の瞬間、今度は白い浜辺に三角座りする自分。


打ち寄せる波は音はしないが


コバルトブルーの海から


とめどなく姿を現し、


その裾をレースのように白くしている。




と、また景色が変わる。


駅のホームで母が手を振っている。


辺りは蓮華畑で、紫色が気品高く感じられる。


と、母が何かを叫んでいる。


何だろう。聞こえない。


近づこうと思うのだが、


進めど進めど母には近づけない。




そしてまた場面が変わる。


河だ。


河口なのか上流なのか


全然分からないが


くるぶしから下が水の中に浸かり


ひんやりとした感触が


足から心臓に届く。


ゴツゴツとした岩も足の裏をくすぐり、


頭上の竹林が、カサカサと風になびいている。


そんな音に耳を澄ましていると、


やがて意識が遠のいていくのだった。




こうして、オイラはようやく自分の部屋に戻る。


白い家の壁はそのままで、


窓からの空気は相変わらず冷たい。






時折この様な状態になる。


多分とても短い一瞬の事なのだと思うのだが


その一瞬でオイラは時空の狭間を


ウロウロするのだ。


もしかしたら時空とは言えないかも知れない。


時間も空間も否定されてるような気がする。


思考の旅。


一体どこへ行くのだろう。


そしてどこへ辿り着くのか。


もしかしたら今もその瞬間かもしれない。


オイラはいつ目が覚めるのだろう。。。




 深淵


,..それは取り留めのない対象であるような気がする。